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Mission × Mission 【04:襲来、晴れのちミッション】

連載4話。来ヶ谷さんとのドタバタメイン、野郎達も出てきて話が動きます。

ここまでで前半戦、終了。
そろそろ言ってもいい頃でしょう、この小説これでも一応メインストーリーの中核は理樹と恭介なんだ!!
一般向け作品のつもりなので多分友情…です……?
後半は未登場のヒロイン達と恭介(ヒロイン枠)のターンになります。
あと3話まで異常にしっとりめだったけど基本この通りのドタバタ小説だと思って下されば。
予告しておいて確実に自分の首絞めてる……。


【04:襲来、晴れのちミッション】





 朝練というものがある。
本来は主に体育会系部活動で使用される用語なのだと思う。といっても、僕はまともに部活動に所属したことがないので練習や試合で朝夕、三百六十五日、年中無休で忙しい幼馴染の言からの推測だ。

 時々、人は言う。「部活動に所属していないなんて、青春を無駄にしている」
 ……うん、そういう意見ももっともだ。いわゆる帰宅部だからといって精力的な運動部や、芸術的な文化部の活動にまったく興味がない訳じゃない。長らく患っていた持病のため、集団生活における規律と平等が重視される環境に積極的に身を置くことを控えていたに過ぎない。完治した今はもう、その必要もないのだけれど。
 ナルコレプシー。それが僕が幼少期から抱えてきた病状、そして形を得た弱さの名前だった。今だから冷淡に振り返えることができるけれど心因性だったのだと思う。同じように、動機付けだったのかなとも。小さな輪の中で満足するための、外の世界に焦がれることを諦めるための、翼を畳んで今日を生きるそのための、重い鎖を伴った鉄枷。それを抱き締めて永々と時計の針を止めていたのは多分、他でもない僕自身だった。
 これは誰にも言ったことがないから、どうか秘密にしてほしい。
 輝く少年の眼をした幼馴染が「野球をしよう」と言ったその時、あるいは初めて入った野球部の部室に満ちた土煙を肺に吸い込んだ時、グラウンドで使い古されたグローブを手に填めた時。実は、僕は胸一杯に溢れそうなほど奔放に弾む心を抱いていたのだ。限りない明日に無限の期待を覚えてわくわくする気持ち、これがきっと、「部活動」なんだ、って。
 その後、僕らのリトルバスターズは「部活動」という型に嵌め込むには些か困難な集団へと舵を切りに行ったのだった。全員で集まって缶蹴りをしたり、近隣の施設で人形劇を上演したり、文武両道を目指すためと嘯いて短歌を作ったり、体育会で馬鹿騒ぎしたり。
 そんなこんなの毎日で忘れがちなのだけれど、実は僕らは打って走って投げて歓喜する、草野球チームなのだった。

「やはり、青春の汗をしっぽりムフフとかくのは気持ちの良いものだな」

 額の汗を拭う来ヶ谷さんの表情はとても清々しい。晴れ渡った空の下、春風に吹かれた流麗な黒髪が洗い立ての朝日を浴びて健康的な眩しさを放っている。
 野球チーム・リトルバスターズには驚くべきことに冬季休業が存在する。単純に「寒いからグラウンドで野球をするのは暫く控えよう」という理由から採用された辺りに、やる気のなさの片鱗が窺えてしまうのだけれど、そもそも試合前にしかまともに活動していない事実を告げたら納得して貰えるだろうか。

 今朝の練習は、休業期間が明けて初めての「朝練」だった。
 乾いたグラウンドの上では練習を終えたリトルバスターズの面々が思い思いに散らばっている。マネージャーの西園さんから冷たい麦茶を受け取っている葉留佳さん、ツインテールの尾を追いかける二羽の雛のように後ろからやって来たのは鈴とクドみたいだ。バットを振りながら「筋肉! 筋肉!」と威勢のいい掛け声と共にスクワットをしている、傍から見ても無理無茶無謀以外のなにものでもない過度の運動を自らに強要している真人と、その隣で競うようにして物凄い速度の剛球を投げて白壁と延々とキャッチボールしている謙吾。この二人はついさっき練習終わりの号令をかけたのを、ちゃんと聞いていたのだろうか……?

「なにより、じっとりとした汗に絡め取られて物憂げな女生徒を観察できるのが良い。落ちた体力から息切れをする様がまた素晴らしい。エロスを感じずにはいられない。その点、『ふぇ~ダイエットしなきゃ~』などと運動不足を気にする小毬君は文句無しの及第点だ……」
 そして、来ヶ谷さんはスポーツタオルで首筋の汗を拭く小毬さんをじっとりと熟視し、少し距離を隔てていやらしい目つきで眺めている。朝から絶好調だった。ついつい、感嘆の声が漏れる。

「うわあ……。来ヶ谷さん、相変わらずだね」
「なに。久方振りの野外活動に少々浮かれているだけだよ」
「それで来ヶ谷さんは全く衰えてないから凄いよね。何か特別なことでもしてるの?」
「特に鍛錬はしていない……のだが、私は一度身に着けたスタイルや運動能力値が変動しにくい体質らしいな」
 この人、正体はサイボーグか何かの類なのだろうか。

「恭介氏は結局、現れず……か」
 本格的な受験シーズンの到来を迎えて三学年は既に自由登校になっていたはずだ。ガラガラになった校舎三階の空き教室に幽霊のように陰鬱に沈む影を見つけると、極限まで荒んだ三年生のそれと知っていても悲鳴をあげそうになる。大学受験って実はこの世で最も畏れるに足る精神汚染兵器なのかもしれない。
 一方、僕らのチーム唯一の三年生である恭介は春からの就職先も決まって悠々と遊び耽っているから暢気なものだった。旅と称した徒歩での就職活動、もとい諸国漫遊の味を占めたのか、今度は大手を振って風来坊よろしくさすらってる。そういう訳で、今は男子寮の部屋を空けてどこかへ出かけている。

「それよりも、だ。練習も終わって、かといって試合の予定もない。退屈しているぞ。そろそろ新しいミッションの一つでも提案してもいい頃合だとは思わないかね?」
 手持ち無沙汰な閑暇、指摘されてみれば全くその通りだ。
 今朝の練習も「暖かくなってきたからそろそろ活動再開しようか」というのは言い訳で、持て余した活力を発散する為のものだったのかもしれない。

「そうだね。何か考えておくよ」
「なんなら理樹君が一日おねーさん専属メイドになるミッションでも構わない」
「それ僕のミッションだよね?!」

 突飛な提案に慄いてると、傍らに野太い人影が揺らめいた。スクワットを中断してきたのだろう、珠のような汗を顎から滴らせて近づいてくるのは、真人だった。
 どうやら僕らの会話を聞いていたらしい、思わず頭を抱える。
「なんだ? 理樹がメイドになるのか? 筋肉とメイドの相性っていいのか?」
 頼むから、闊達とした声で言わないで欲しい。
 呆気に取られる僕の隣には、舐めるように視線を廻して真人自慢の肉体美を値踏みする、来ヶ谷さん。やがて、うむ、と短く頷く。
「君の筋肉との相性は最悪だな。万が一実装してみろ、万死に値する」
 ドスの利いた一声。きぃんと高音の耳鳴りが聞こえてきそうな程、場の空気が凍り付く。冷厳な態度に殺伐とした血の気を通わせて、冗談では済まない事は一目瞭然だった。
 背筋を冷凍する褪め切った場を割って、突如、ぬっと浅い影が伸びる。僕ら二人は救いの手を切望して訪れた足音に振り向いた。
「巫女服……というのもありじゃないか?」
 ……心底信じたくないが、謙吾だった。

「む。謙吾少年は静に熱くて堅くて屈強そうに見えて意外に話がわかるな。どちらも捨てがたいが間をとって、和洋折衷案……大正浪漫な純喫茶風女給さんと洒落込もうじゃないか。さあ、理樹君!」
 ガバッと大袈裟な振りをつけて来ヶ谷さんは両腕を目いっぱい広げる。爛々とみなぎる精気を振り撒く来ヶ谷さんに身の危機感を覚えて構えるものの、臨戦態勢に入る気配はない。とりあえず、形振り構わず襲われる心配はなさそうだ。
 一安心もつかの間、挑戦的な眼差しを送って彼女は僕をそそのかす。

「なんだ? おねーさんの胸元が恋しくないのか? おっぱいだぞ、しかも揺れる」

 飛び込んで来いと言わんばかりに無防備に晒された胸元。柔らかい肉感でじとりと視線を犯す白い素肌。来ヶ谷さんの背景に浮かぶおどろおどろしい鬼面が蠱惑的に囁く。
 ――ここで逃げるのは男が廃るぞ?
 ごくり、と唾を飲む。劇的な前進の一歩を踏み出して、そして、
「来ヶ谷さん、ごめん!」
 僕はすぐさまくるりと身を翻し、脱兎のごとく駆け出した。来ヶ谷さんの刺激的な提案に恐ろしいほど掻き乱された心臓がバクバクとうるさい。早鐘は走り出す速度のままにスピードを上昇させていく。戯れの誘惑がこんなにも平静を揺らす、そのくらいあの人は魅力的だ。それでも。それでも、だ。人気も疎らな朝のグラウンドで欲望に身を任せて享楽できるほど僕は落ちぶれていない!
 逃げるんじゃない、そう、これは戦局を鑑みた決断……戦略的撤退だ。一旦冷静になって外聞を気にしてしまうあたり僕はどこまで行っても僕でしかないんだな……。状況を俯瞰した感慨がいっそ涙を誘うほど虚しかった。



 おおよそにして一分後。
 中庭の外れのあたりまで来て、僕は来ヶ谷さんの二の腕の合間に拘束されていた。
「はっはっは。この私から逃げようなどと。無駄に足掻くのがお好みかな、我らがリーダー様は」
 結局こうなると判っていても男には逃げなければならない時があるんだ。
 般若の形相を背負って猛々しい速力で迫りくる来ヶ谷さんの魔の手を回想して、怒涛の勢いで押し寄せる後悔に肝を冷やしながら、一人納得を試みる。
 首に回された柔らかな二の腕の感覚が仄かに思考を蕩かす甘さで迫ってきて戦慄した。甘美な状況だと思われそうな一反、正直かなり息が苦しいので寝技をかけられたレスラーの苦境に近い。
 こんな時ばかりは頼りになる真人も謙吾も姿が見えない。友情の儚さにあやうく泣き出しそうだった。

「さて、と。お楽しみのお仕置きターイムだ。どこから美味しく頂こうかな……」

 うわああ! この人朝からやってることが完全に強姦魔だ!
 呼気を荒げた来ヶ谷さんに強引に制服の上着の下へ細やかな手を突っ込まれた。
 カッターシャツの上から軽く臍周りを撫でられただけだというのに、妙に身体が密着しているせいで変な気持ちになってくる。頬にかかる熱っぽい吐息から逃れるように顔を背けると、ぴたりと来ヶ谷さんの手の動きが已んだ。
 怪訝に感じて、来ヶ谷さんの横顔を見上げる。真剣な表情、濡れ羽色の瞳は僕を捉えてはいなかった。何かを待つように遠くをじっと見たまま、微動だにしない。
 腕の拘束が弛む。そのままあっさりと解放された……かと思いきや、ぐいと片腕を引かれた。急激な引力に負けて身を預けると、暗転した視界全面に押し付けられて迫るものがあった。程よく柔らかくそして弾力を備えた、マシュマロを思わせるそれは呼吸を遮って、ええと、その、つまり。
「……って、何するのさ!」
 全力で肩を押し返して抵抗する、胸元に埋もれた顔を離すことは何とか成功した。
「ふふ……この程度で動転するとは理樹君は実に愛らしい」
 からからと鷹揚に笑い、満足げに誇る来ヶ谷さん。この人と一緒にいるといつもこんな役回りを担わされている気がする。彼女の横暴さを憎めない僕に勝ち目はなさそうで、呆れ返りながらも最後には許容してしまう。
 まだ授業も始まっていないというのに、今日は朝からどっと疲れてしまった。……ホント、疲れた。






 下駄箱を開くと、一通の手紙があった。

 バンッ。廊下に大きな音がとどろく。動揺に気圧されるのあまり勢いよく戸を閉めてしまってから盛大に後悔する。何か用事を思い出したらしい来ヶ谷さんと別れてから、僕は通用口で謙吾と真人と合流していた。今ので少なくとも背後で自分の靴箱とにらめっこしていた二人は何事かと思ったはずだ。彼らに悟られないように、「あっ虫だ」とわざとらしい演技で誤魔化す。
 これはもしかしてあれだろうか? バレンタインデーもとうに過ぎた三月の頭だというのにうら若き青春の一大イベントの到来を迎えてしまったのだろうか。
 勇気を振り絞りきることができずに半月遅れでやって来た、僕の春、小さな手紙。今まで僕らのグループでは謙吾に一極集中していたそれが、僕の下駄箱にある。
 そこまで考えてからはっとする。いや、いくらなんでも都合が良すぎる。

 浮いた話ときたら剣道部のエースとして黄色い声と脚光を同時に浴びる謙吾と、女子の熱い視線を涼しく受け流して漫画に没頭する恭介の専売特許だ。そして、僕と謙吾は同じクラス。ラブレターなんて古風な手段がいまだに実在するんだ、あり得ない話じゃない。……届け先を間違えられた手紙くらい恭介が貸してくれた漫画の定番じゃないか。
 一度は閉じた扉を心して開く。もう、恋文でも果たし状でもなんでもこい。
 半ば自棄になりながら封を破いて内容を確認する。白い封筒、慎ましやかな便箋。
 ……文面を認めてまず初めに、目を疑った。

「どうしたよ、理樹っち。さっきから手が固まってるぜ? あれか、朝練に励みすぎて筋肉痛で動かなくなっちまったか?」
「というかそれは、手紙じゃないか。まさかラブレターか? ついに理樹にもその時が来たか……相談なら乗るぞ」
「………………おい、謙吾さんよ、無反応だぞ。どうしちまったんだ?」
「お前が筋肉痛とか言い出したからじゃないのか。なんでも筋肉に結び付けようとする短絡な思考に呆れて声も出ないのだろう」
「なにィー?! 俺のせいだってのかよ!」
「他に考えられん」
「うおお、理樹、俺が悪かった! 頼むから返事してくれよ……! シカトされるのが筋肉には一番悪いって知ってるだろ?! ……ってまたやっちまったー!」

 一人で自爆していた真人に肩を揺さぶられて、ようやく我に返る。
 謙吾が心配そうな顔で僕を見ていた。
「ああ、ごめん。ちょっと思考が別世界に行ってた。別に真人のせいじゃないんだ」
 もちろん、嘘じゃない。原因は僕の手の中にある。僅かに逡巡してからこの状況での一つの結論を導き出す。謙吾も真人も頼れる親友だ、長年苦楽を共にしてきた大事な仲間でもある。

「二人とも、これを見てくれないかな」
 二人に手紙の文面を見せる。

「……すごく言い辛いんだけど、できれば意見も聞かせてほしい」
 言い出しておいて物凄く間抜けな質問だと自嘲する。でも、ひょっとしたら僕にだけ見えるように謎の暗示をかけられた手紙かもしれないし、特殊なインクで書かれていて空気に触れたら文字が消えてしまうのかもしれない。そんな淡い期待を込めた幻想を打ち消すように、謙吾が渋い顔をした。
「これは、どう見ても……あれだろう」
 やはりここに書かれていることは見間違いの類ではないのか……。
 念を押すように真人の頷きが続く。
「おう、あれだな」
「やっぱり二人ともそう思う?」
「……ところであれってなんだ?」
「真人、いつものあれだってば」
「あー……あれか、言われてみればそんな気もするな」
「今回ばかりは懐かしいような気もするがな」
 そして、僕は今度こそ手紙の文章と同封されたチラシを二度見するのだった。


『第一回! チキチキ!棗恭介を捕まえよう選手権 ~優勝者には豪華賞品アリ~』

 ……恭介が、帰って来た。


(続く)
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